シセラの仕込みが続く。
シセラ仕込み工程の始まりは温州みかんの収穫から。天気の良い日に、シセラ専用みかん一回分の仕込み量350キログラムを二人で収穫する。次はみかんの処理と搾汁。みかんの処理は、一個あたり約100グラムのみかんを、一つずつヴィニュロンが乾拭きし、セカンドヴィニュロンが包丁で二つに切るという作業を計算上およそ3500回繰り返す。楽しい作業ではないどころか、マラソンのような忍耐と持久力が必要であるが、質を追求するが故の作業なので軽快にヴィニュロンの心意気で持ちこたえることができる。こうして処理したみかんをバスケットプレスで圧搾し、果汁をステンレスタンクへ移していく。ここまでが仕込みの第一段階だが、これでやれやれと家に帰るわけにはいかない。後片付けがあるのだ。仕込み作業後はみかんの果汁や果肉の粒が仕込み室やバスケットプレス、仕込みタンク等の至る箇所に付着しているため、全てを洗い流さなければならない。ぶどうもみかんも糖分が高いため、洗い残しがあれば直ぐにカビが出てしまい、次の仕込みそして発酵に悪影響が出てしまう。そのため、仕込み作業の後は徹底した洗浄が必要なのだ。みかんの粒はよく目立ち分かりやすいが、とにかくしつこい。しっかり洗い流したと思っても、またひょっこり現れる。この片付け作業もまた、まるで本日2回目のマラソンを走るかのような持久戦。じっくり丁寧に隅から隅までを洗浄する。すると、洗い流したものすべてがピッカピカになる。ぶどうでは色素がとれず、ほとんどのワイン工場では特別な強い酸とアルカリの洗剤を使って洗浄し、やっとのことでキレイになるのだが、当醸造所では今季のぶどうの仕込みが全て終わってからみかんを仕込むことで、高価な洗剤を使うことなく、醸造機器は鮮やかにツルツルピカピカになる。その正体は、みかん成分「クエン酸!」である。ぶどうの酸成分は主に酒石酸だが、みかんはほぼクエン酸、まさにエコロジカルな天然洗剤なのだ。片付けの後は仕込み部屋中がすっきりピカピカで気持ちがいい。
そしてエコな柑橘系の香りを全身にまとい、すっかり夜が更けた静かな醸造所の明かりを消して、仕込みの一日は終わる。
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