なぜ周防大島でワインをつくるのか?
それは、ずっと超えられない壁があったからかもしれない。
大学4年生の時に初めてつくったワイン。大学のぶどう園地で栽培収穫した甲州種を、一房ずつ手で粒を取り、宝石のように輝く粒を手と足で必死に潰し、ろ布でゆっくりと搾った。その果汁を大きなガラス瓶に入れ、ワイン酵母を選択して酒母を培養し、搾汁液に加え、発酵の様子を毎日ワクワクしながら観察した。酵母の発酵する音や細かく綺麗に湧き上がる泡に感動しながら、ぶどう本来のアロマから発酵によるブーケに変化していく様を五感で感じた。発酵が終わり、ろ過をすると、美しく黄色味のある魅惑の液体が完成した。それを口に含んだ時の衝撃が忘れられない。決して一般的に優秀なワインではなかったと思うが「こんな風味になるのか」という驚きと、ワインをつくることの楽しみが、その一口含んだワインから無限に感じられた。
ワインをつくることを職業、仕事として以来約20年、あの時の感動を得ることができなかった。
では、どうしたら良いか、
日常としてワインと向き合うこと。つまり、ライフワークとして、同じ大学の研究室でワインを学び、共にこれまで歩んできた妻と二人でワインづくりをすること。それを実現するために周防大島でワイン農家になり、今年で10年目となる(2022年現在)。
Life
Wine
良いワインってどんなワインだろう?
皆さんにとって、どんなワインが良いワインですか?
私が約20年間かけてたどり着いたひとつの答えは、
[物語がいっぱい詰まったワイン]でした。
そんなワインをつくるために、生き様として日常生活の根幹をなすものとして、ぶどうを栽培しワインをつくる「ワイン農家」となることを決め、2013年周防大島の地にぶどうの苗を植えました。そして2018年、私たちは開かれた大規模な観光ワイナリーではなく、閉じた小規模な醸造所をつくることにしました。そこには、私たちが理想だと考える想いを全て込めました。
1. 生涯ヴィニュロンである
2. 決まったレシピを持たない
3. ミニマルに仕込む
4. そして、最大限の愛情を注いで育て届ける
シンプルですが、これが私たちのワイナリーの約束です。
Philosophy
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2.決まったレシピを持たないとは、私たちの[ワインをもっと自由に]という発想に基づいています。同じ日同じ瞬間がないのと同様に、一年に一度だけ実るぶどうは、それぞれの年ごとに違った良さがあります。気象条件も異なれば、樹齢も違い、若い樹もやがて老いた樹になりますが、そのぶどうの個性に出会えるのは一度きりですから、特徴をありのまま最大限に引き出したワインとなるように、ぶどうに合わせてつくり方を選びます。決まったレシピを持たないことで、レシピは無限大になり、醸造の瞬間まで考え抜いて、最後は感性にしたがって最も良いと考える仕込みを行います。生産性や流行を求めた過剰な醸造技術を使うことはせず、昔からある伝統的な技術を基に、自らの経験で得た知識と感性を駆使しています。
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3.ミニマル(必要最小限)に仕込むとは、私たちの[妥協しない]というワガママを通すためです。ワインはいわば農作物であり、一年の大半をぶどう栽培に費やし、コツコツと畑に足を運んでぶどうと向き合うことが最も重要な仕事になります。その年々でベストだというワインづくりを行うために必要なのは、全てのぶどうの状態を確認できるほどの大きさの畑と、そこから収穫したぶどうの状態に合わせて、極めて繊細な調整ができる手に馴染む手動の醸造機器でした。可能な限り少なく、かつ必要十分な量を、衛生管理に注意を払いつつ、丁寧に心は躍り楽しみながらワインを醸造しています。
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4.ぶどう栽培は、子育てとよく似ています。大切に、でも甘やかさずに、全てのぶどう達が元気で素直に育つように、そして最良の状態で収穫ができるようにと沢山の愛情を注いでいます。仕事の日という概念はなく、日々の生活の中にぶどう作りがあり、そしてワインを醸造する。つまり、私たちの形態は、ワイナリーと言うより、ワイン農家という言葉がぴったりだと思っています。優しさも厳しさも、毎年手塩にかけて育て上げた我が子をボトルに乗せて、最後にいってらっしゃいの想いを込めて、袋がけして皆様の元へ送り出します。ラベルに記した詩[+]は、私たちのワインづくりの哲学です。
join
そして最後に、全ての実現のためにメンバーシップ制のクローズドワイナリーという選択を行いました。会員制の小規模ワイナリーです。
私たちの理想とする[物語がいっぱい詰まったワイン]は、作り手の私たちと共に一緒に歩んでくださる飲み手の皆様がいてはじめて実現します。生産者と購入者という切り離された従来の枠にハマることなく、[作り手]と[見守る飲み手]という新しいカタチ、ある意味共同体のようなカタチが必要だと考えました。
もし、想いに共感してくださる皆様と共に毎年の物語を共有できればこれほど嬉しいことはありません。